From Ishida

研究室の歴史

理化学研究所にて、ソフトマテリアル開発をミッションとする研究室として 2009年9月に発足し、現在に至ります。その間、様々な研究背景・専門性・国籍を持つメンバー(People)が参画し、研究活動を続けてきました。

なぜソフトマテリアルなのか 基礎・実用・五感

ゲルやエラストマーに代表される「ソフトマテリアル」が近年、バイオ医療分野を含む多分野で注目されています。ソフトマテリアルの構造は生体組織に近く、生体を究極的に簡略化したモデルとして、基礎的に興味深い材料です。軽量かつ柔軟で、環境や生体に優しく、人体の中で使える可能性を秘めた、実用的に夢のある材料でもあります。

ここで、人々の生活のあり方を変えたソフトマテリアル「ゴム」を紹介します。驚くべきことに、3000年以上前のメソアメリカにて、樹液を固めたゴムの競技用ボールが既に使われていました。1493年にコロンブスが2度目の航海にて、エスパニョーラ島の原住民が遊んでいたゴムのボールを持ち帰ったのを機に、ゴムは世界中で知られるようになりました。当時ヨーロッパにあった「糸まり」よりはるかに軽く、はるかに高く弾む天然ゴムを見たコロンブスは「まるで生き物のようだ・・!」と漏らしたそうです。コロンブスの大航海からさらに500年が経った現在、ゴムは自動車を始め、様々な産業(医療・宇宙・輸送・建築など)の根幹を支える存在となりました。これだけ大きく変形し、かつ元の形状に戻れる物質は他になく、3000年間の長きに渡り、唯一無二の材料として君臨し続けています。

ソフトマテリアルの研究が進展した現在、ほとんどの物性測定は、複雑な装置を介して行われています。しかしながら、ソフトマテリアル研究の面白さは何といっても、目前の材料の物性を、自分の五感で感じられる点にあります。新材料を開発し、それに触ったときの「あれっ?・・いつもと違う!」という感覚は、この分野に独特のものです。現代ソフトマテリアルに関わる一研究者として、初めてゴムに触れた人間の驚きは、常に心に留めたいものです。

有機合成の感覚で精密設計することで、生体に肉薄したソフトマテリアルを目指します

人工ソフトマテリアルと生体組織とは類似点が多いものの、両者の構造には大きな隔たりがあります。人工ソフトマテリアルは、構成単位の形状もバラつき、なおかつ、それらは巨視的に配向されていない点において、生体組織に大きく劣ります。構成単位のバラつきと巨視的配向の乱れは、正確な構造解析・学問の深化を妨げてもいます。

当研究室を主催する石田は、学位取得から9年間、東京大学にて有機合成化学に携わった後、理化学研究所への異動を機に、ソフトマテリアルの研究を始めました。研究の方向を大幅に変えたことで、大きな廻り道をし、大きな遅れをとってしまったわけですが・・ この廻り道は案外、悪くなかった気がしています。すなわち、有機合成化学で使われる概念や手法をソフトマテリアル合成に転用することで、ソフトマテリアルの構造を制御し、生体に似た、生体を補完する、生体を超えるソフトマテリアルを目指した研究を続けています。詳細は Research をご覧ください。

本研究室には、色々な立場(理研の研究員・JSPSおよび他のフェローシップの研究員・技術員・研修生 など)で参画可能であり、熱意のある方を随時募集しています。興味のある方は、石田までお問い合わせください。

研究室主宰者 石田 康博

国立研究開発法人 理化学研究所 創発物性科学研究センター
創発生体関連ソフトマター 研究チーム

トップへ戻るボタン